会員公開講座 式地香織さん 竹沢徳剛さん「都市の新しい居住形態が新しい家族像を生む」

2020年11月13日

7月25日、子どもの感性や理性を育むデザインワークショップ事業「コドモチョウナイカイ」を主宰されている建築家の式地香織さん、巣鴨・大塚でシェアハウス/シェアオフィス「RYOZAN PARK」の企画運営をされている竹沢徳剛さんを講師にお招きして、本年度第2回目の公開講座が開催されました。

“ウィズコロナ”時代の新たな都市や社会のあり方が模索されつつある昨今の状況も踏まえつつ、子どものためのデザイン教育・都市での職住形態を取り巻く野心的な取り組みを通して、これからの人々の繋がりのあり方を考える回となりました。

[コドモチョウナイカイ] デザインでまなぶ・あそぶ・つながる:プロジェクトの始まりとコンセプト

「コドモチョウナイカイ事務局」は、子どもを対象としたワークショップやイベントを企画運営する団体です。カリキュラムを通して、子どもたち・家族・地域が年ごとのテーマを共有し、徐々にスケールが大きくなるデザイン課題の集大成として「コドモチョウナイカイまつり」を作り上げます。

この事業の原点には、建築を学ぶ中で自分の視点が広がり、家族や地域の問題が自らが参画して解決すべき“課題”に変わったご自身の経験があります。

本塾で運営する「子ども建築塾」や田口純子さんが座長を務める「こどもけんちく研究(2012-2014)」に携わる中で、

①建築を通して子どもたちの創造力や表現力を育む

②子どもたちと地域・社会との関係を育む

ということが建築教育において大切にされるべきであると考え、「コドモチョウナイカイ事務局」の発足にいたったそうです。

式地さんが活動のビジョンとして掲げているのは“デザインのもつ教育力で子どもたちの生きる力と場を育む”ということ。

ひとり→ペア→グループ→チームと協働の範囲を拡げながら、“思考する力”・“企画する力”・“表現する力”・“協働する力”・“解決する力”を養います。加えて、“子どもたちに温かい意思がある環境にいて欲しい”・“地域社会との繋がりを持って欲しい”との思いから、地域を大切に想う人たちの手によって企画運営されるイベントであり、多様な人々が出会い交流し協働するプラットフォームとして機能してきた“おまつり”をつくりあげるというアイデアが生まれました。

[コドモチョウナイカイ] 活動の様子

式地さんは実際にどのようなプログラムを用意されているのでしょうか。2019年度のカリキュラムを例として、子どもたちの学びの軌跡を紹介してくださいました。カリキュラムに参加したのは、5-12歳までの24人。

限界や境界を超えるデザインの力を探究するプロジェクトとしてのおまつり“DESIGN-PIC(デザインピック)”を集大成に据えて、以下のワークショップが行われたそうです。

2019年07月07日 わたしをひょうげんする ファッションのデザイン

2019年09月08日 ふたりでかんがえる ゲストハウスのデザイン

2019年10月06日 チームでつくる せんしゅむらのデザイン

2019年11月10日 チームでつたえる かいそんしきのデザイン

カリキュラムを通して目指されたのは、“社会に存在する様々な限界や境界について向かい合う”ことです。例えば、「ファッションのデザイン」を通して、自由な自己表現のためには、他者の感情や経験を理解することや多様性の尊重が大切であることを学びました。

「ゲストハウスのデザイン」では“形や色にちゃんと意味のある”(*1)デザインを、「せんしゅむらのデザイン」では“外の世界が介入する”(*2)建築デザインを、「かいそんしきのデザイン」では時間軸のデザインを起点として、多様な人々との協働の難しさや困難をこえてやり遂げることの喜びについて学びました。

そして、12月には、コドモチョウナイカイの子供たちがいろいろな地域の子どもたち-デザインピアン=デザイン競技の選手-をホストする「デザインピック」が開催されました。

このおまつりでは、ワークショップやアクティビティ-デザインピックの舞台づくり、なりたい自分・願望・希望を表現、心身を解放するダンスや音楽への取り組み-を体験すると、”メダル”が授与されます。

これらの“大人を交えた全力のごっこ遊び”を通して、障害の有無・言葉や文化の違いなどを超えるデザインとは何かを考える機会を生み出すという仕掛けです。加えて、「サマーキャンプ」「コドモデザインサミット」というイベント内でのワークショップ-皆で楽しめる遊びの考案、遠隔ロボットによる重度障害を抱える方々との交流-と組み合わせて、障害の有無に関係なく皆が参画できる社会を考えるという点が重視されたそうです。

これらの活動を通して、式地さんは「多様な専門家や大人が関わることで大人のプラットフォームもできる。すると、子どもの教育に関する共同知の集積場が生まれる」という発見があったそう。今後は、多様な地域で「コドモチョウナイカイ」を広げていくことで、「種を植えるように、その土地で・その場所で・そのメンバーだからこその育つ多様なコミュニティのあり方を模索していきたい」と力強くおっしゃいました。

 

[Ryozan Park] 働く・学ぶ・暮らす・育てるの新しい形:僕とRyozan Parkについて

巣鴨と大塚にあるRyozan Parkは、オフィス・レジデンス・スクールを3本柱としたシェアライフが楽しめる都市居住の新しい形として、2012年に誕生しました。“より豊かな人生はシェアからはじまる”という哲学を起点として、人々の温もりとエネルギー溢れるコミュニティの形が模索されています。

“開村”のきっかけは2011年の東日本大震災です。国際法・国際政治を修めるために留学し、卒業後も働いていたワシントンDCで、日本のために何かしなければ、という思いに突き動かされ、日本の情報を発信する団体を設立します。

そこで出会った、“在日”・“日系”という様々なルーツを持った日本人や日系人の若者達が、今こそ祖国のために!と活動している姿や、当時のオバマ大統領の活動をはじめとするアメリカ合衆国の多様性・自由・民主主義を尊重する姿勢に感銘を受け、どんなバックグランドの人間でも日本でチャレンジしたいと思っている人を 全力で支える場所にしたい、という思いを持って、オーナーの竹沢さん一家が曽祖父の代から建材屋さんを営んできた土地・巣鴨でRyozan Parkは誕生しました。

竹沢さんのご家族も文化・地域的多様性に富んだ方々が集まっており、スコットランド・トルコにルーツを持つメンバーがいて、仏教・イスラム教・キリスト教等、信仰も様々です。

「趣味は山伏修行・肉を焼くこと・ワークアウトです!」と豪快におっしゃる竹沢さんの人柄が、Ryozan Parkのインクルーシブで温かく安心感のある空気感の核となっています。

この場所で竹沢さんが模索されているコミュニティは、“強い家族とコミュニティの中で弱い個人が守られている”(*3)近代以前に存在したような社会と、近代以後の“弱い家族とコミュニティに対して、強い個人が存在している社会”との間に立つような、”閉じているようで開いている家族やコミュニティと、強いようで弱く、弱いようで強い個人が、お互い付かず離れずの風通し良い相関関係になっているようなものだそうです。

そして、“私人たちが持ち寄った「持ち出し」の総和から「公共」が立ち上がる”(*4)という信条を携え、“幸福感・生活の質を高める人間関係として、頻繁に会い語り合い食事をするような人間関係=自己再生のコミュニティ”(*5)を生み出すために、グラットンの論を参考にして以下の点を踏まえた模索を日々続けられているそうです

①知的興奮・創造性を刺激する物事-公園・公共スペース、文化行事、美しいもの-を取り入れる

②自分らしく生き、自分を自由に表現し、自分の個性を育める

③他の人と知り合い友達になりやすい仕組みを取り入れる

加えて、入居希望者には「夢はなんですか?」「やりたいことはなんですか」という雑談を通して、Ryozan Parkの風土や哲学の一端を担ってくれる方々か見定めます。こうして、Ryozan Parkという“村”が形成されてきたそうです。

[Ryozan Park] Ryozan Park–村での生活、ここで実現できること

Ryozan Parkの施設は、巣鴨と大塚の徒歩約20分圏内に5つの建物があり、500-600人くらいの人が住み、働き、子育てをしています。そのうち、巣鴨には、ビル全体、地下1階から6階までの空間に、居室空間に加えて、共有スペースとして、イベントスペース・ジム・ダイニング・オフィス・リビングがあります。

これらのスペースでは、料理教室・音楽ライブ・ナイトクラブ・講座といった多様な活動が開催されており、住民同士の密な交流が実現されています。特にキッチンでは、生産者から塊で入手した肉や釣ってきた魚を住民の誰かが調理すればみんなで和気藹々と団らんし、まさに“同じ飯の窯を食う”家族のような関係性の源になっているそうです。

2013年には、豊島区が消滅可能性都市であるという指摘がなされ、待機児童が社会問題化したという世相に影響を受け、これから生まれてくる子どもたちや子育て世代を支援するという問題意識が“村”で共有され、出来ることを考えるためのワークショップが開かれました。

その結果として誕生したのが、大塚のRyozan Parkです。ここでは、ビルの5-7階に、シェアハウスに加えて、託児所・コワーキングオフィス・個室タイプシェアオフィス・ボルダリング施設などが備えられています。

“It takes a village to raise a child. 一人の子どもを育てるにも村全体の協力が必要”というアフリカ のことわざを理念にして、シェアハウス・シェアオフィスの住人や会員が、無理をしない非常に緩やかな拡大家族的な共同体として、子育てに自然と触れ合う環境が目指されています。さらに、大学生の企業家・NPO法人等、チャレンジしたい人を支援する仕組みも整っているそうです。

今後は、コミュニティを進化させる“アート・食・音楽”を支援する取り組みにより力を入れ、アーティストを支援するギャラリー、食の起業家を育てるためのキッチンを備えたシェアオフィスのオープン、音楽家のためのシェアハウスの拡張や、多様なライフステージの家族が住めるシェアハウスなどを計画するそう。Ryozan Parkの卒業生が和歌山・岐阜など全国に戻り、サードプレイス作りの活動をしているという成果もあり、竹沢さんの思いは脈々と受け継がれているようでした。

人々の間における直接的な体験の共有を加速させるために、式地さんも竹沢さんも、横(分野・地域・中心と周辺)と縦(世代間)の有機的な繋がりを模索されています。コロナ禍で“集まらない”ことが求められている昨今の現状を踏まえると、人々が幸福な気持ちで生活したり生きる力を育んでいく上での“人間同士の繋がりの大切さ”、“多様な繋がりのあり方”、“繋がりを得るために出来ること”を模索する上で、お二人のお話はとても示唆的でした。

新型コロナウイルスに伴う社会不安も継続中ではありますが、どうかみなさんもお元気で過ごされてください。皆で力を合わせて困難を乗り越えていけるよう、伊東建築塾一同今後も皆様の生きる糧となる活動に誠心誠意取り組んでまいります。

岩永 薫

[参考文献]
(*1)ナガオカケンメイ. 2013. 世界を変えるデザインの力<1><2><3>. 教育画劇.
(*2)伊東豊雄. 2005. みちの家 (くうねるところにすむところ―子どもたちに伝えたい家の本). インデックスコミュニケーションズ.
(*3)ユヴァル・ノア・ハラリ. 2016. サピエンス全史上下. 河出書房新社.
(*4)内田樹. 2020. サル化する世界. 文藝春秋.
(*5)リンダ・グラットン他. 2016. ライフシフト: 100年時代の人生戦略. 東洋経済新報社.