ブログ: 公開講座

昨年11月11日、島根県隠岐郡海士町の山内道雄町長をお招きして、今年度第5回目の会員公開講座が行われました。海士町のキーワードは「ないものはない」。人と自然が輝き続ける島を目指し、「なくてよい。大切なものはすべてここにある」という信念の元、2002年の町長就任以来、地域経営と地方創生に立ち向かう山内町長が、これまでなさってきた取り組みとその結実についてお話を伺いました。

生き残りを懸けた「自立促進プラン」の始まり
まずは「住民総合サービス株式会社」からお話が始まりました。これは、山内町長が役場職員の意識改革を始めるために掲げた役場の新しい立ち位置です。「自立・挑戦・交流〜人と自然が輝き続ける島に」を経営方針として職務に取り組み、毎週木曜日には「経営会議」も行います。さらに、評価制度を導入し、熱意と誠意のある職員がますますやる気を持って働ける環境をつくったり、2005年からは未来への投資として町長を含む役員の給与40-50%カットを行ったりしました。「トップ自ら身を切らない改革は住民に支持されない。トップが自ら変われば地域は変わる」と、山内町長は強調されます。このように始まった改革によって、役場の本気度が少しずつ地域へ伝わり、やがて住民の意識まで変わり始めました。これが、危機脱出を図るのに不可欠である危機意識が海士町のみんなで共有され、「島を自分たちで守り、自分たちで未来を築く」という自治の意識が芽生えた瞬間でした。

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2017年12月16日、NPO Homedoorの理事長を務める川口加奈さんを講師に迎え、第6回会員公開講座が行われました。「ホームレス状態を生み出さない日本を目指して」と題して、野宿生活者(ホームレスの人)をはじめとする生活困窮者を対象とした就労支援の取り組みについてお話しいただきました。

ホームレス問題との出会い
川口さんは、14歳でホームレス問題に出会いました。中学の電車通学で新今宮駅を利用し始め、釜ヶ崎(あいりん地区)に立ち並ぶホームレスの人のテントを目にするようになりました。周囲の人たちから新今宮駅は「危ないらしい」「降りたらあかんよ」と言われ、ここには大人の隠している何かがあると思い調べ始めました。釜ヶ崎は通称あいりん地区と呼ばれ、行政が日雇い労働者を集める寄せ場としてつくられました。また、毎日のように炊き出しが行われていることを知った川口さんは興味本位でこれに参加しました。寒い冬の中、おにぎり一つのために500人以上の「おっちゃん」が列をつくっていました。当時、川口さんはホームレスのおっちゃんたちに対してあまり良い印象を持たず、「もっと勉強していればよかったのでは?」と思っていたそうです。それをおっちゃんたちに聞くと、彼らは勉強できるという環境がそもそもなく、勉強を頑張るか頑張らないかすら選べなかったことを知ったそうです。

貧困の連鎖
川口さんは貧困が連鎖することを指摘されます。貧困な家庭に生まれると、またその4分の1が貧困状態に陥るそうです。さらに、若いホームレスの人に顕著なのは、児童養護施設の出身者が10人に1人、母子家庭・父子家庭の出身者が3人に1人と、家庭環境が要因であることが多いようです。また、家庭環境が悪くなくてもホームレス状態になっている人がいることも指摘されます。

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6月10日、編集者の菅付雅信さんをお招きして今年度第2回目の会員講座が行われました。著書『物欲なき世界』がベストセラーとなり、クリエイティブカンパニーである「株式会社グーテンベルクオーケストラ」の代表取締役として数々の大手企業に広告・ブランディングなどのアドバイスをなさっているご自身の知見から、現代に見られる「物欲のあり方の変化」について「モノ-幸せ-資本主義」という観点でお話しいただきました。

ライフスタイル——「生き方」が最後の商品
近年の市場的傾向として見られる、ライフスタイルを謳った商品の増加。特に、都内では、生活雑貨などを扱ったり、店舗内にヨガ・ファッション・雑貨などをまとめて展開したりする「ライフスタイルショップ」の増加が顕著で、地方にも飛び火していることや、「蔦屋家電」や「ZARA HOME」など大手企業の参入も見られます。これらの背景には、アメリカ西海岸発の雑誌『KINFOLK』による“安易な情報とヴァーチャルアクセスの時代である今、シンプルで意味のある生活を追求する”というテーマの成功がもたらした、ファッションからライフスタイルへという流通の変化があります。そして、「雑誌のライフスタイル化」が進行し、若者の消費・ファッション離れが注目されるようになったそうです。このように、「生き方」が消費されるようになった現在とは「消費の終着点」なのかもしれない、と菅付さんは分析します。

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7月8日、「地方にこそデザインのチカラを!」をビジョンに掲げて活動されている株式会社ファームステッドの共同代表・長岡淳一さんと阿部岳さんをお招きして、今年度第3回目の会員公開講座が行われました。講座前半では農業のブランディングに関する考え方について、後半では実際に取り組まれた事例についてお話ししてくださいました。

ファームステッドとは
まずは、会社とお二人の自己紹介。株式会社ファームステッドは本社を北海道帯広市に構える、農業を始めとする第一次産業にデザインを活用しながら地域のモノ・コトを発信するデザイン・ブランディング・カンパニー。長岡さんがプログラムやテーマづくりをするクリエイティブディレクター、阿部さんがブランディングを形に落とし込むアートディレクターという役職分担でブランドデザインを進めて行きます。プロデュースの依頼が来たら、まず現地へ向かい、その地域を感じ、地域の人々とコミュニケーションをとる、ということを大切にされているそうです。本社が帯広であるのも、そのように「地方の現状を常に感じておく」という会社の精神が反映されているのですね。
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5月13日、2017年度最初の会員公開講座が開かれ、塾長の伊東豊雄が講演を行いました。「建築の夢」というテーマを掲げ、20世紀から現代にかけて建築家たちが追いかけてきた夢や彼らがつくり出した今の建築のあり方、そして現在、伊東塾長が胸に抱く「建築の夢」についてのお話でした。

プロローグ­——夢を実現する
伊東塾長にとって夢を実現するということ。それは「自然と建築とが一致する」ということ。そして、それをかたちにするために、幾何学と人の力が欠かせないと言います。

その「夢」をデザインした例として、伊東塾長が持つイメージと幾何学を使って実現された建築が紹介されました。それは、「爽やかな風が吹く木陰で本を読める図書館」をかたちにした「台湾大学社会科学部図書館」や、ポルトガルでコンサートの会場となっていた「階段と踊り場がある街中の広場」をかたちにした「台中国家歌劇院(台中メトロポリタンオペラハウス)」です。特に、大きなオペラ劇場とは程遠い、ストリートの延長のような空間を狙った「台中国家歌劇院」では、人がブラブラ行き来する中で小さなイベントが絶え間なく行われ、伊東塾長の期待以上に、細かなたくさんの交流が自然発生的に起こっていたそうです。アイデアと幾何学が織りなす空間デザインの素敵な可能性が感じられます。

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2017年2月も半ばを過ぎると、少しずつ春の気配が感じられてきました。2016年度最後の公開講座では、「Soup Stock Tokyo」やネクタイブランド「giraffe」などを運営する株式会社スマイルズ(以下、スマイルズ)の遠山正道さんにお越しいただきました。「それぞれの人が自分の領域だけでは立ち行かなくなってきている」という言葉から、起業のきっかけや理念を語ってくださいました。

三菱商事に勤めていた遠山さんが起業したきっかけは絵の個展の開催でした。とあるプロデューサーに「遠山くんの夢はなに?」と聞かれ、「個展をやってみたいかな」と答えたことから、1年後の33歳のときに個展を開くことを決心しました。しかし、イラストの仕事はしていたものの、ちゃんとした絵は一枚も描いたことがなく、筆も持ったことがなかったという遠山さん。そこでタイルの絵付けに挑戦することにし、さらにタイルは土からできていることから筆ではなく野菜や果物で描き始めました。1年で70点の作品を制作し、代官山にあるHILLSIDE TERRACEで個展を開催しました。その経験はとても楽しく、絵も全て売れましたが、「おかげさまで夢が叶いました!」と言ったところ、「これは夢の実現なんかじゃない、ここからがスタートだろ」と言われたそうです。

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2017年最初の公開講座は、建築設計事務所アトリエ・ワンの塚本由晴さんと社会福祉法人福祉楽団を主宰する飯田大輔さんにお越しいただきました。建築家と施主の関係であるお二人に、飯田さんの活動とそれを叶えた塚本さんの建築について、楽しくお話しいただきました。

飯田さんの主宰する「福祉楽団」は、お年寄りや障害を持つ方のケア事業や就労支援事業を行う社会福祉法人です。透明性の高い運営方法や清潔で明るい雰囲気、商品や空間、デザインの質の高さなど、これまでの福祉のイメージにとらわれないやり方で、特別養護老人ホームやデイケアセンター、障害を持つ人のための福祉事業などを行っています。
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2016年11月13日、講師にランドスケープ・アーキテクトの石川幹子先生を招き、小石川後楽園において、第5回会員講座「江戸の名園探訪」が開催されました。

冒頭、石川先生からは、小石川後楽園について、世界に誇る庭園であり、何度来ても新しい発見がある、というお話がありました。その後、昭和13年に作庭家の重森三玲が実測により作成した図面と、明治16年にフランス淡彩色図法で描かれた図面の2つの図面をもとに、以前は水戸徳川家の屋敷が広がっていた敷地が政府に接収され、砲兵工場等に次第に変化していった様子や、木の一本一本や石のひとつひとつまで地道に実測を重ね緻密に描きこまれた様子を解説されました。

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そして、石川先生から、参加者の皆さんに対し、「庭園とは何か」という問いかけがありました。自然の縮図、揺らぎ、世界、安らぎ…といった各参加者の答えに対し、石川先生からは、日本庭園はひとつのユートピアで、小石川後楽園は江戸のディズニーランドであり、多様なもてなしのもとに心の解放を促す場所であるという一つの解が示されました。20世紀にパリに作られたラ・ヴィレット公園のように、都市と連続しフィクションを排除した公園とは異なり、日本の庭園は、時間と空間をアートにより飛翔させた物語であり、綿密に編み出されたフィクションとのことです。

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2016年内最後の公開講座は、島根県中山間地域研究センター研究統括監・島根県立大学連携大学院教授の藤山浩さんにお越しいただきました。著書『田園回帰1%戦略』でも語られている地方の魅力とこれからの地域づくりについて、人口・経済の二点からお話しいただきました。

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5月14日、2016年度最初の会員公開講座が開かれ、塾長の伊東豊雄が講演を行いました。「建築を建てるということ」をテーマに、伊東塾長の幼少期の原体験から、昨年行われた新国立競技場設計コンペまで、さまざまな内容を含んだ講演会でした。

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桜の下で花見をする
桜の下で花見をする。このイメージが伊東塾長の建築に通底する根源的なものであるという話から講演は始まりました。1本の桜の木を中心に力が広がり、3本の木が集まることで場が生まれ、そこで花見をする。そうした桜の木々の間に巡らされた、取り除くだけで元の場所に戻っていく膜のようなものが最も素晴らしい建築であると述べます。

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