今日は伊東さんと東京大学の太田浩史さんが神谷町スタジオにおこしになられ、スタッフ一同とこれから「伊東塾」でどのように活動していくかの会議を行いました。毎度このような著名な方々と席を共にしていると、なんだか自分のおかれている環境の贅沢さにも麻痺してきます。ただ必要以上に気張らず相手と接することができるようになったのは、自らにスタッフとしての自覚が明瞭に現れてきたからなのかもしれません。
前回に続きミーハーな人選ですが、ハンナ・アレントは「人間の条件」の中で、人間の行為を「労働」「仕事」「活動」という3つの要素に区分しています。「労働」とはマルクスのいうプロレタリアート。消費され、この世から一瞬で消え去るものを大量に生み出す行為です。「仕事」とはこの世にいつまでも存在し、世界の一部となるものを生み出す行為。建築家も彼女曰くこれに分類されます。
そして彼女が最も重要だとするのが「活動」。これはギリシャ時代のポリスによる政治のあり方からきています。これは簡略的に言ってしまえば公の場で人々が議論することでした。もちろん当時は人間に階級があり、「活動」に参加できるものはごくわずか。奴隷に市民権はありませんでした。しかし、現代は階級制度が消滅し、誰もが公の「活動」に参加できます。にもかかわらず人々はプライベートばかりを求めるように、そんな状況とは真逆の道を歩み始めました。もともとプライベートという言葉には「公が欠如している」という意味が込められています。プライベートになるということは、今の言葉でいえば社会性の欠如と見なされるわけです。
アレントは本著により、現代で失われてしまった「活動」を取り戻そうとしています。
しかし、考えてみると建築家は「仕事人」であると同時に、「活動家」でもあるのです。建築家に限らず、ものを創造する人ならば誰もが仕事と同時に活動を行うでしょうし、そうでなければなりません。しかしそのことに自覚的である人がどれだけいるか、いかに多くの建築家が「仕事人」であることに徹し、「活動家」であることを忘却しようとしているか。
伊東塾で行われる「活動」的議論が、今後はもっと様々な人を巻き込み、よりギリシャ的な議論の場となれば、建築家はその意義を取り戻し、今の阻害された状況から少しは脱却できるのではないでしょうか。
山本至

みなさま、こんにちは。伊東建築塾の山本至です。
まだ建築塾自体は始動していないのですが、着々と準備は進んでおります。これからどのような活動が行われて行くのか、恐らくそれはやりながら様々な要素が付加され、様々な方向へ進歩していくものだと思います。本塾のスタッフとして、伊東さんが行われるこれからの講座が楽しみです。
伊東塾では実践的な建築の講義に加え、受講者と共に建築の原初的なあり方を探り出すという試みを行います。「建築の原初」とは何なのか。それは言語的な側面だけを捉えれば、原始時代に人々がすんでいた洞穴のようなものなのかもしれません。しかし、それが果たして現代社会における建築にどのように合致し、どのようにその重要性を獲得していくのか。それはなかなか簡単に答えの出るものではありません。今回の震災は人災だとたびたび耳にします。原発の問題だけを捉えると、そうかもしれませんが、仮に現在の文明がなかったとしても、被害の規模は変わらないどころかもっと酷くなっていたでしょう。
ヘーゲルがフランス革命について以下のような文を記しています。
『思想、正義の概念が忽ちにして優勢となり、旧来の不正義の足場はこれに対して何の抵抗をもなしえなかった。アナクサゴラスはかつてはじめてこういった、理性が支配すると、だが、思想が精神的な現実世界を支配せねばならなぬということを認めるように、人間がなったのはやっとこのごろである。(エンゲルス「空想より科学へ」より抜粋)』
ヘーゲルの進化論は今にして思えばひどく単純なのかもしれません。
しかし思想や論理が世界を構築していることは疑い用のない事実であり、当時から既にそれを明確に理解していたヘーゲルの見方には驚かされるものがあります。
原初を見据えるというのは単純に過去へ戻るのではなく、ヘーゲルの言う「思想から現実世界を構築する作業」の一つだと思います。ヘーゲルのように文明の歴史を一本の線で辿ってしまうことが間違いなのだとしたら、それこそ「原初」をヘーゲルがいう「このごろ」以前に戻ることとはき違えるのもまた間違いと言えるでしょう。
私達が「建築の原初」をいかに現代文明と併合させながら考えて行けるか、そこにこの塾の重要な意義があるような気がします。
これから私の感想や、伊東塾での活動の様子を随時ブログに綴っていきますので、ご笑覧いただければと思います。
山本至
今治市伊東豊雄建築ミュージアムプレイベント(2011/01/16開催)

今治市伊東豊雄建築ミュージアムプレイベントとして、大三島小学校の高学年を対象とした建築ワークショップが行われた。当初の予想を上回る数の子ども達が参加し、会場は熱気に包まれた。
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