8 月 24 日、福岡大学 4 号館多目的ホールで「伊東子ども建築塾福岡 最終発表会」が行われました。
伊東豊雄塾長、講師の先生方、保護者の方々、TA、スタッフなどで会場は満席でした。 広い会場と大勢の人たちを前にしてやや緊張した面持ちの子ども達もいましたが、TA が優しく声を掛けたり、発表の練習をしたりする様子が印象的でした。 4 月から始まった子ども建築塾福岡の今年のテーマは「風と暮らすいえ」。 今回子ども達は、10 回の授業で考えた自分の家を模型や絵を使って、1 人 2 分の持ち時間を使い 18 人の塾生全員が発表しました。 どの作品も魅力に溢れており、最終回のブログは前編・後編に分けて、全作品の発表の模様をグループごとにお届けします。
A グループ A グループは“ファンタジー”や“儚さ”など情緒的な作品が多く、また子どもらしい世界観を堂々と大人に見せてくれたグループでした。平瀬先生は「大人は思わず“これは海なの? 空なの?”などと混乱してしまうけれど、そんな大人の常識を突き抜ける発想があった。」とおっしゃっていました。
「桜と暮らすイエ」 桜前線と一緒に移動する気球の家で、気球に乗ってさまざまな地域から来た人と出会うことができるワクワク感がある作品です。また一方で、風がもつ“移ろい”や“儚さ”といったイメージを当初から大切にしており、発表時の「同じ人に来年は会えないかもしれません」という言葉が印象的でした。 その言葉が特に伊東先生の心に響いたようで、「桜が散る様を詠んだ古今和歌集の和歌に通じるはかなさが感じられる。」と絶賛されていました。
「森と海の間にある家」 サンゴ礁の水槽が印象的な模型と素材感のある長いスケッチで表現したのは、「森と海の間にある家」です。風で揺れるサンゴ礁を見ながら家の中でも森と海の風を両方感じることができて、心地良い生活が想像できます。 風はコントロールできないものだという前提のなかで、それでもここは暑い場所・寒い場所と決めつけず、自然の力だけで快適な環境を創り出そうとする姿勢を井手先生が、そしてその立地として“森と海の間“を選んだセンスを伊東先生が高く評価していました。
「しゃぼん玉みたいな家」 スケッチのような模型のような不思議な表現で、しゃぼん玉に色を付けて吹いてできた模様が背景になっており、家の中もキラキラと光って見えてとても綺麗で幻想的な作品です。 今年の最年少塾生ということもあり、授業時は友達や TA のお兄さんお姉さんと楽しくのびのびと取り組んでいたので、その天真爛漫な様子と幻想的な作品とのギャップが印象的でした。 理屈でなく感覚的に風を捉えて、感じたことをそのまま素直に表現できるのは、大人も羨む能力で、伊東先生はこの 2 枚の絵に強く心惹かれている様子でした。
「風で動く家」 風の気分で家が動くので自分の好きには動けないという独創的な「風で動く家」。 空中に浮いた家からは眺望の良さと風との一体感を感じられそうです。 中間発表時からコンセプトは一貫しており、その不自由さを逆手に具体的にどんな暮らしができるのか、講師の先生や TA から様々な意見やアイディアが出ていました。 最終発表でも “風は人間がコントロールできないもので、それに委ねることにこの家の面白さがある”という主張と抽象模型に留め、敢えて具体的な生活風景を出さなかったところをみると、解釈を見る人に委ね、巻き込もうとする彼の術にすっかり大人が惹きこまれたようにすら感じます。
B グループ B グループは全 10 回の授業を通して、満場一致で、仲が良く賑やかで楽しそうな班でした。発想が豊かでアイディアがつぎつぎに浮かんでくる子も多く、それにお互い影響を受け合いながら、各々の案が深まっていったようです。
「まきものの風」 今回一番長いスケッチで会場の目を惹いたのは、「まきものの風」です。風に乗っていろいろなところに行くことができ、家のかたちが生き物のように変わることで雨や炎や花粉から守ってくれるしくみです。周囲の自然や気候によって家が変化していく様々な表現が面白く、新しい体験がたくさんできそうです。 彼から止めどなく生まれてくるアイディアをどのように作品としてまとめるか、本人もTA も講師の先生も一緒に悩んでいましたが、7 回目の授業の終わりにようやく見つけた“巻物“という表現が見事にはまったようです。 「その巻物のスケッチがとても良いから、後ろの席からも見えるように今すぐにでも線や色を濃くしてごらん、もっと良くなる。」と伊東先生。確かに写真にして載せると、彼の1つ1つのアイディアの魅力が伝わりにくいのが惜しいです。
「風巡る雲の町」 空中の都市計画を発表してくれたのは雲の町は浮いていて、町の中心の木が風を作り、風の道ができ、風の力で町が動いていくという壮大な計画で、スケッチで表現された細部の空間が生き生きとした生活を想像させてくれます。 「毎回とても楽しそうに授業に取り組んでいる様子が印象的だった。」と井手先生もおっしゃっていましたが、彼は B チームひいては今年の子ども塾のムードメーカーでもありました。グループの中でも特に彼は仲間の作品や発想に、いい意味で影響を受け、そこから学び、自分の作品に取り入れていこうとする意欲が際立っていました。 彼の描いた町は、今年の塾生の「“風”と暮らすいえ」をすべて取り込んでしまいそうなくらいのエネルギーと包容力が感じられます。 伊東先生の「アイディアを考えながら描いていく様がスケッチから伝わってくる。今の大学生はこんなスケッチ描けるかな。」という言葉に TA の大学生もタジタジでした。
「場所と形が自由自在に操れる家」 季節によって快適に過ごせるように家が変形していく気球の家に住み、季節に合わせて空や地下に移動し、家の形まで変わってしまうという自然に根ざした生活の工夫がたくさん考えられた作品です。 坂口先生からは「私もこんな家で夏は涼しく、冬は地下でぬくぬくと快適に暮らしたい。」そして伊東先生には「僕の考えていることと一緒だな。いや僕よりいいかもしれない。」と言わしめるほど、合理的かつ魅力的なアイディアをスケッチと模型で表現してくれました。
「メグるぐるぐる風の家」 「メグるぐるぐる風の家」は、らせんを使って地下の空気を上に送るという建築的にも理にかなったしくみの家です。地下まで伸びた円錐状の家の中でらせんのフォルムが快適な空気を運ぶだけでなく、視覚的にも引き付けます。 彼女は“ぐるぐる巡る”という風のイメージを当初から大事にしつつも、授業の度にどんどんカタチが変わり、直前の授業まで円錐形で今とは全く異なる模型を作っていました。 形はどんどん変わるけれど、変わっていくごとにどんどんコンセプトに近づいてブラッシュアップしていき「とくに最後の最後で、カタチをひっくり返し、ぐっとコンセプトに迫る様はまさしく建築のプロセスそのもの。」と井手先生も感心していました。
C グループ 「このグループは、とくに模型がどれも素晴らしかった。」と伊東先生がおっしゃっていましたが、授業を通して見守っていた井手先生や坂口先生曰く、C グループはとくに前半のグループワークでの議論が活発で論理的なメンバーだったとのこと。 前半のグループ作業を通して風の捉え方について考えが深まっていたことが、後半の模型表現に深みを与えていたのではないでしょうか。
「風で変わる海の家」 きらきらとした深い青が一際目を惹く、幻想的な作品です。風で家の形が変わり、家ごと海の中や上に移動できます。透明な家の中で、海の中で魚を観察したり、大きな音で音楽を聞くことができたりと、家と一緒に楽しい体験がたくさんできそうです。 大人では想像しがたい「海の中を吹く風」と「海の生物と楽しく遊ぶ」というアイディアを中間発表のドローイングから最後まで温め続け、最終発表では、とても美しい模型でその世界観を表現してくれました。 伊東先生が「原稿を読まずに、模型を使って魅力を伝えないともったいないよ。」とおっしゃっていましたが、それほどにスクリーンに映し出された彼女の模型は会場を魅了していました。
「風と遊ぶ世界」 大きな木の幹の家で、外にはぶらんこやハンモックがあり、木の幹の内外に遊べる場所が点在した豊かな空間が広がっています。やさしい風を届けてくれる木に住みたい!という気持ちが感じられる楽しい提案です。 初期に描いたドローイングが魅力的だったので、講師の先生方も最終発表まで絵で表現していいのではと考えていたそうですが、模型を作り、手を動かしながら考えることで、積もった落ち葉で外部にも遊び場を作るなどスケッチの時には描いていなかった新しいアイディアが生まれてきていました。また何より本人が楽しそうに模型を作っている様子が印象的でした。
「ぼくと風の旅」 たくさんの綿に乗った色彩豊かでダイナミックな家で、風が快適な場所まで家を運んでくれます。風が部屋の壁を押すことで大きさが変わる仕組みです。自由な風を綿の柔らかさで大胆に表現した躍動感あふれる作品となっています。 彼は「僕が行きたいところに風が連れて行ってくれるのではなくて、風が行きたいところに 連れていってくれる」という点に、当初からこだわって取り組んでいました。 中間発表で語っていた“虹のような形”や“もぐらたたきのように風と遊ぶ”体験が、最終的にこの模型につながったことに坂口先生も驚かれていましたが、後半の授業で講師の先生や TA の助言もあり一気にアイディアが爆発して形になったようです。
「フィルターハウス」 美しいグラデーションの薄い膜が重なった作品で、悪い空気から守ってくれるフィルターは、その上でも自由に遊ぶことができる構造になっています。仕組みはロジカルでありつつ、柔らかく繊細な表現の模型が魅力的でした。 中間発表の時点では、スケッチブックに描かれたダイヤグラムだけだったので、「フィルターの一番奥って本当にいい環境になるかな?」といった意見もありました。しかし、そんな大人の心配をグラデーション状にフィルターを重ねるという手法で、見事に打ち破ってくれました。 伊東先生は「今の建築は、断熱性・気密性ばかりを気にして、内と外が明確に分かれていてつまらない。昔の日本建築のようなグラデ―ショナルな建築って魅力的だよね。僕もそういう建築が作りたいんだよな。」とおっしゃっていました。
以上、前半の発表はここまでです。
ここまでの発表を終始笑顔で見守る伊東先生・坂口先生・井手先生。 前半グループの講評を振り返ってみると「君は模型はいいから、このスケッチをもっと描いてみせてほしかったな」など、個々が最も得意とする表現を見出し、それをもっともっと伸ばそうと声をかける伊東先生と、「スケッチを薦めようとしたけれど、模型にするとそれはそれで、スケッチの時の良さが模型にも現れていて・・・」などと子ども達の可能性を横に拡げることに重きを置く井手先生と坂口先生のアドバイスが対照的でした。
子ども塾の授業では、様々な立場や視点で複数の大人が声掛けをするため、子ども達は時に戸惑うことがあるかもしれませんが、その関わりあいのなかで自分のアイディアや能力を信じ、木の幹と枝葉のように縦に横に伸ばして拡げていって欲しいなと思いました。
発表のつづきは『風と暮らすいえ 最終発表会』後編をお楽しみに。
古野 尚美(ブログ担当)